予備校や塾を探していると、
「東京大学○○名」
「早慶○○名」
「難関大学合格率○%」
といった合格実績をよく目にします。
結論から言えば、合格実績は見てもいい。ただし、その数字だけで塾を選ぶ必要はありません。
特に、大手予備校の全校舎を合計した合格者数を見ても、自分が実際に受ける指導について分かることは限られています。
合格実績を見るなら、次の3段階で考えると整理しやすくなります。
| 段階 | 確認すること | 知りたいこと |
|---|---|---|
| ① 数字の定義 | 誰を、どう数えた実績か | その数字が何を表しているか |
| ② 自分との関連性 | 校舎・コース・現役/浪人・受験方式・学力や課題 | 自分に近い事例があるか |
| ③ 今の指導への接続 | その経験が現在の講師や指導にどう残っているか | これから自分が受ける支援につながるか |
この記事では、この3つを順番に確認していきます。
まず知っておきたい|合格実績は「塾の強さランキング」ではない
「合格者が多いから、自分も受かりやすいわけではない」
これは頭では分かっていても、塾を比較するときには大きな数字に判断を引っ張られやすいものです。
さらに、
「これだけ合格者がいるなら、合格ノウハウも豊富なのでは?」
と考えることもあるでしょう。
これは完全に間違いとは言えません。
実人数として多くの生徒を継続的に指導していれば、それだけ多くの受験事例に触れる機会は増えますし、担当講師自身に経験が蓄積されていることもあります。
ただし、合格者が多いことと、その経験が自分への指導に使えることは別です。
合格実績を見るときは、「何人受かったか」で止めず、その数字が何を意味し、自分とどの程度関係し、現在の指導にどうつながっているのかまで確認します。
確認①|まず「誰を、どう数えた数字なのか」を見る
合格実績は、すべての塾・予備校が同じルールで集計しているわけではありません。
たとえば河合塾の2026年度合格実績は、河合塾グループ関連法人の在籍者だけでなく講習受講生も集計対象としており、公開模試だけの受験生は含めていません。
また、1人が複数の大学・学部・学科に合格した場合は、それぞれ合格者として計上しています。河合塾「合格実績」公式ページ(2026年10月7日確認)
一方、東進の2026年合格実績は現役生のみで、高卒生を含みません。
さらに、東進生として入学手続きを行い、通期講座1講座分以上にあたる教育サービスを受けた生徒を対象とし、講習生や模試生は含めないとしています。東進「現役合格実績」公式ページ(2026年10月7日確認)
つまり、
「A予備校は○○大学に500人」
「B予備校は300人」
「だからA予備校の方が優れている」
と、そのまま比較することはできません。
まず確認したいのは、次のような数字の定義です。
- 現役生だけか、高卒生も含むか
- 通年在籍者だけか、講習生も含むか
- 模試だけの受験生は含むか
- 1人の複数合格をそれぞれ計上しているか
- 実人数なのか、延べ人数なのか
公益社団法人全国学習塾協会も「合格実績自主基準」を設けており、2024年7月に基準を変更しています。全国学習塾協会「合格実績自主基準変更のお知らせ」(2026年10月7日確認)
ただし、これはあくまで業界団体による自主基準です。
「合格実績自主基準がある=すべての塾・予備校が同じ集計方法を使っている」という意味ではありません。
だからこそ、実績を見るときは数字の大きさより先に、その数字がどう集計されたものなのかを確認した方がいいでしょう。
浪人生なら「現役実績」と分けて見る
「受験の羅針盤」は浪人生を主な対象にしています。
そのため、特に注意したいのが現役生と浪人生を一緒に見ないことです。
たとえば先ほどの東進の公表実績は、公式に現役生のみとされています。
もちろん、現役生の実績に価値がないという話ではありません。
ただ、浪人生からすると、
- 1年間の学習時間
- 学校との両立の有無
- 学習管理の方法
- 利用するコース
- 指導体制
などが異なる可能性があります。
そのため、自分が浪人生なら、「浪人生として、同じ志望先を目指した事例があるか」まで分けて確認した方が、自分との関連性は高くなります。
確認②|全国合計より「自分が実際に利用する環境」に近い実績を見る
数字の定義を確認したら、次はその実績が自分とどの程度関係するのかを見ます。
大手予備校の場合、全国の合格実績より、自分が実際に利用する校舎・コース・指導体制に近い実績の方が参考になります。
- 通学型で校舎ごとに講師や担当者が異なるなら、校舎単位
- 全国共通の映像授業やカリキュラムが中心なら、利用するコースや指導体制
- オンライン型なら、担当予定者やそのサービス内での指導経験
見る単位は、塾の仕組みによって変わります。
重要なのは、「全国で何人受かったか」より、「自分がこれから利用する環境で、どんな受験生を扱ったことがあるか」を見ることです。
校舎別の数字が公開されていなくても問題ない
すべての塾が校舎別の合格実績を公開しているわけではありません。
その場合、校舎別実績がない=悪い塾と判断する必要はありません。
説明会や個別相談で、
「この校舎・コースで、私の志望大学を目指した浪人生を指導した例はありますか?」
と確認すれば十分です。
オンライン型や講師の配置が流動的なサービスなら、
「担当予定の先生や担当チームに、この志望大学の指導経験はありますか?」
と聞いてもいいでしょう。
合格者数を公表しているかどうかではなく、自分が受ける指導との接点を確認することが目的です。
合格者数だけでなく、母数や受験者数も見る
仮に、「難関大学100名合格」と書かれていたとします。
その数字だけでは、500人規模の塾なのか、5,000人規模の塾なのか分かりません。
そのため、可能であれば在籍人数などの母数も確認したいところです。
ただし、母数が分かれば解決するわけでもありません。
その大学についての合格率を見るなら、少なくとも、何人が実際に受験し、そのうち何人が合格したのかが必要です。
それでも、
- 入塾時の学力
- 入塾選抜の有無
- 志望校変更
- 受験を勧める基準
- 他の教育サービスの併用
などが違うため、合格率だけで塾の指導力を公平に比較できるわけではありません。
特に、入塾時点で合格可能性の高い生徒を多く集めていれば、合格率は高くなりやすくなります。
合格者数も、母数も、合格率も、それ単独で塾の指導力を表す数字にはなりません。
小規模塾は「過去数年の事例」を見る方が分かりやすい
小規模な塾では、母数が少ないため、1〜2人の結果でも年度ごとの合格率が大きく変わります。
だから、単年度の「○○大学合格率○%」を見るより、過去数年間に、どの大学・学部への合格事例があったかを見る方が参考になることがあります。
たとえば毎年20人前後の受験生を指導している塾なら、1年の数字よりも、
「過去5年間で、自分の志望先に近い大学への合格者がいるか」
を見る方が、その塾がこれまで扱ってきた受験の範囲は分かりやすくなります。
ただし、ここでも、合格者がいた=自分も同じように合格できるという意味ではありません。
あくまで、そのレベル・その受験方式の生徒を扱った経験があるかを見るための材料です。
確認③|「合格事例」が、今の指導にどう残っているかを見る
ここが、合格実績を見るときに一番重要だと考えています。
合格者が多ければ、成功事例は増えます。
でも、成功談がたくさんあることと、次の生徒に使える指導知が蓄積されていることは同じではありません。
本当に知りたいのは、
- その生徒にどんな課題があったのか
- 塾側がどんな判断をしたのか
- どんな教材・学習計画・指導・面談を行ったのか
- その後、何が変化したのか
が振り返られているかです。
さらに言えば、合格した事例だけを見ても十分ではありません。
同じような支援を行っても、うまくいかなかった生徒はいるはずです。
成功例だけから「この方法を使ったから受かった」と考えると、その生徒自身の努力や元々の学力、学校や他サービスの影響などを取り違える可能性があります。
だから、「なぜ受かったのか」を断定するのではなく、どんな状態の生徒に何を行い、その後どう変化したかを、成功・未達の両方から振り返っているかを見る方が現実的です。
その経験が、
- 担当講師自身の経験として残っている
- 面談記録などに残されている
- 教材や課題設定に反映されている
- 担当者間で共有されている
- カリキュラムの修正に使われている
のであれば、過去の合格事例が現在の指導に使える知見へつながっている可能性があります。
ただし、これも「共有している塾なら必ず指導力が高い」という話ではありません。
あくまで、過去の数字がこれから自分が受ける支援とつながっているかを確認する材料です。
自分に近い事例を見るなら、偏差値だけで比べない
「自分と似た生徒が合格しているか」は有益な確認ですが、偏差値だけを合わせても十分ではありません。
たとえば同じ偏差値50でも、
- 現役生か浪人生か
- 残り期間はどれくらいか
- どの科目で止まっているか
- 勉強時間を確保できているか
- 一般選抜か推薦・総合型か
- どの科目を使うか
によって状況は変わります。
だから、「自分と同じ偏差値の合格者がいた」ではなく、「自分と近い課題や受験条件の生徒を扱った経験があるか」を見る方がいいでしょう。
そもそも自分が何に困っているのか分からない場合は、先に受験勉強で「どこで止まっているか」を確認する方法で整理しておくと、合格事例を見るときにも比較しやすくなります。
説明会では「合格者はいますか?」の先まで聞く
合格実績を見る目的は、過去の数字を評価することではありません。
これから自分が受ける指導を確認することです。
そのため、説明会や個別相談では、次のように聞いてみてください。
まず確認したい質問
「この校舎・コースで、私の志望大学に合格した浪人生の事例はありますか?」
「個人が特定されない範囲で、私と近い学力帯や課題から合格した例はありますか?」
「その生徒には、どのような教材・学習計画・支援を行いましたか?」
ここまでは、合格事例そのものを確認する質問です。
もう一段確認するなら、
「似た課題の生徒を担当するとき、教材選びや学習計画、面談などで共通して使っている基準はありますか?」
「過去の事例をもとに、教材や課題の出し方、カリキュラムなどを変えた例はありますか?」
と聞いてみてもいいでしょう。
「過去の経験を共有していますか?」だけでは、「はい、共有しています」で終わってしまいます。
具体的な教材、科目、時期、判断基準、変更内容まで話が出てくれば、過去の事例が現在の指導にどう残っているかを少し確認しやすくなります。
逆に、
「一人ひとりに合わせています」
「みんな頑張っています」
といった抽象的な回答だけなら、まだ知りたいことを確認できていません。
もちろん、具体的に答えられなかったからといって、その塾の指導が悪いと断定することもできません。
あくまで、合格実績だけでは分からない部分を確認するための質問です。
駿台は2026年度から合格者数の掲載を終了した
合格実績の扱いについては、大手予備校側にも変化があります。
駿台予備学校は2025年8月1日、2026年度以降、各大学や一部学部の合格者数の掲載を終了すると発表しました。駿台予備学校「2026年度以降の合格者数掲載について」(2026年10月7日確認)
駿台自身はその理由について、複数の塾・予備校やオンライン教材などを併用して学ぶことが一般的になり、単一の教育機関における合格者数が本来の意味を持ちにくくなっていると説明しています。
また駿台は、2025年度入試の東京大学一般選抜前期日程の合格者数が2,997名だった一方で、主要な塾・予備校が公表する合格者数を合計すると実際の定員を大きく上回る数字になることも例として挙げています。
これは、「駿台がやめたのだから、合格実績には意味がない」という根拠ではありません。
あくまで、駿台という一つの予備校が、合格者数という数字だけでは教育機関の実態を表しにくくなったと判断した事例です。
ただ、複数の教育サービスを利用する受験生がいる以上、「この合格者は、どの塾の力で合格したのか」を単純に分けることが難しいケースがあることは、合格実績を見る側も知っておいた方がいいでしょう。
まとめ|合格実績は3段階で見る
合格実績を見るときに覚えておきたいのは、次の3つです。
① 数字の定義を見る
現役・浪人、通年生・講習生、実人数・延べ人数など、「誰をどう数えた数字か」を確認する。
② 自分との関連性を見る
全国合計だけでなく、自分が利用する校舎・コース・指導体制に近い実績か。自分と近い課題・受験方式の事例があるかを見る。
③ 今の指導への接続を見る
過去の合格事例が、現在の講師の経験や教材、学習計画、面談、カリキュラムなどにどう残っているかを確認する。
ここまで見ても、合格実績だけで塾の良し悪しを決めることはできません。
でも、少なくとも、「合格者○○名だから、この塾はすごい」という見方からは抜け出せます。
塾選びで本当に知りたいのは、過去に何人が合格したかではなく、自分がこれから必要な支援を受けられるかです。
合格実績は、その答えではありません。
過去の数字を、これから自分が受ける指導について質問するための材料として使う。
それくらいの位置づけが、ちょうどいいと考えています。